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70回目のバレンタイン 「KISSES ON THE BOTTOM」        PAUL McCARTNEY

昔、小生は小学4年から、中学、高校の6年、社会人になってからの2年間、合わせて12年間陸上部に所属していて、ずっと走っていた。
よく続いたなあと思う。勿論、数知れないほどの大会にも出場した。
小さいのもあれば、大きな大会も出場している。
しかし、今思い出してみると、実は自分の中で覚えている試合というのは数知れている。
それなら、覚えている試合がどういうものかと言うと、優勝したとか、記録が良かったとかそういう類のものも中には確かにあるけれど、結局殆どが自分が「本気で取り組んだ」とか、「本気で意を決して走った」、というものだけである。

他の試合は、本気ではなかったのか、と聞かれると、決してそういう事はなくて、それはそれで必死に優勝しよう、高タイムを出そう、と取り組んだ筈である。そして、その中には確かに優勝したレースもあっただろう。しかし、当の本人は覚えていなくて、実は周りの人間のほうが覚えていたりする。不思議だけれど。

それは、その試合の日が何か特別な日だったとか、相手が余程の強豪だったとか、そういう類のものであって、結局、小生は「何かきっかけが無いと、本気で取り組まなかった」という怠け者だった、ということになるのだろう、きっと。正直、今思えば「何か自分を追い込むもの」とか、「ギリギリ限界」なんかの理由がないと、やらない。
結局、瀬戸際にならないと、本気にならないのである。
やはり、小生は基本、怠け者だったのだろう、きっと。

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ポール・マッカートニーが今年、ビートルズがデビューしてから50周年、年齢も70歳という節目の歳を迎えた。

ということは、当たり前だけれど20歳でデビューした、ということになる。
そして、20代のポールは約8年をビートルズのポールとして活動した。そして、1969年、ラストであり、彼らのベストアルバムである「アビイ・ロード」を発表して、ビートルズは解散した。
このレコードは、既にバラバラになっていた3人にポールが呼びかけ、ビートルズの最後の力を集結して作成したものだけれど、メドレー終盤に入っているポール作「キャリー・ザット・ウェイト」は、以下のように歌われる。

「君はその重荷を背負っていくんだ
 これからの長い人生 ずっと
 君はその重荷に耐えていくんだ
 これからの長い人生 ずっと」
   "CARRY THAT WEIGHT"/ from「ABBEY ROAD」

このレコードは、「ビートルズの最後になるだろう」と4人が分っていたからこそ完成したレコードであるけれど、B面のメドレーなどは、ポールの力によるところが大きい。
ポールが飽和状態になるくらい、力を入れて作ったレコードである。
そして、そこにポールが他の3人に向けて書いたと思われる上記の歌がある。
しかし実質、ビートルズ解散後、この「重荷」を背負う事になったのは、他でもないポール・マッカートニーである。他の三人は、自分の音を、ソロアルバムとして出せば、ビートルズ以外の音に仕上がった。ジョンはジョンの、ジョージはジョージの、そしてリンゴでさえリンゴの音を作り出した。
そして、他の3人はそれで世間やファンからは絶賛されたのである。

しかし、当のポールは困った。
ポールがソロでやっても結局「ビートルズみたい」になってしまう。
それはそうだろう、暴言を承知で言うと、「ビートルズの音はポールの音」だったのだから。

しかし、元々意地っ張りな所がある人だから(だから好きなんだけど)、意地になって自分の音を作ろうとした。自分の新バンド、ウィングスを結成して、しばらくしてようやく「自分の音」が固まって来て、いよいよ次の新作でいよいよウィングスが飛躍する、というタイミングでレコーディング直前でバンドメンバーに脱退されてしまう。しかし、残ったメンバー(といっても、妻のリンダを入れて3人)で作り上げたのが「バンド・オン・ザ・ラン」である。ここでのポールの本気度は異常である。ここは以降の自分の活動が、生きるか死ぬか、という瀬戸際だったと思われる。
殆どの楽器を自身で演奏していて、しかも、ポールが病気になってしまうほどの緊張感を持って制作された。

その後のウィングスは軌道にのって、向うところ敵なしだった。
そこからのポール活動、活躍は、間違いなく第2期黄金時代と言ってもいいだろう。
作品も非常に安定した、質の高いレコードが生み出された。

ポールという人は「ノリに乗っている」時は勿論、安定したアルバムを作る。
ノリに乗っているのだから当たり前なのだけど。しかし、その「安定」がずっとポールを聴いてきた人間からすると、物足りないように思えてしまう。
勿論、ポール自身は良い作品を制作しようとして、アルバム制作に着手しているはずである。
手を抜いているつもりは、これっぽっちも無いはずである。
しかし、ファンから見ると変に作品に余裕を感じてしまうのだ。ポールという人は、才能が有り余っているから、適当にササっと作品を作っても、他人の平均以上のものが出来上がってしまう。
出せば売れる、そして世間から絶賛される。
しかし、我々ポールファンからすると、「あれくらいで、ポールを絶賛されちゃ困る。もっと凄いのよ、彼は」という葛藤が生まれる。

ポールが「傑作」を生み出す時には、必ず直前に何か事件が起こる。
それはポール自身のやる気、本気に火を点けさせるような出来事が多い。
「アビイ・ロード」、「バンド・オン・ザ・ラン」、そしてウィングス解散の危機で制作され起死回生とになった「バッグ・トゥ・ジ・エッグ」、ジョンが亡くなって最初に発表された「タッグ・オブ・ウォー」、80年代のスランプから起死回生の一撃「フラワーズ・イン・ザ・ダート」、制作前に妻のリンダのガンが発覚した「フレイミング・パイ」、初めて離婚問題に直面した「カオス・アンド・クリエーション・イン・ザ・バック・ヤード」など、傑作が発表される前には、必ず彼を奮い立たせるような事件が起きている。
結局、彼は瀬戸際、追い込まれないと本気にならない。
当の本人は、「本気」も「本気でない」もないのだろう、きっと。
おそらく、本人は普段どおりにやっているはずなのだけれど、その辺が天然なのである、ポールは。

ポールの新作は、「キッシーズ・オン・ザ・ボトム」というタイトルで、昔のスタンダート・ナンバーをポール自身がカバーしたものである。
小生もジャズ・ボーカルのアルバムは良く聴く。
しかし、やっぱり、ポールが歌っているだけでジャンルは関係なくなるのね。
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演奏も「ジ・インチ・ウォーム」でアコースティック・ギターを弾いている以外は、演奏は他人に任せて、歌うことだけに徹している。プロデューサーもトミー・リピューマであって、基本的に「歌手・ポールマッカートニー、スタンダートナンバーを歌う」というレコードである。
ジョン・レノンも「ロックン・ロール」を同じような手法で作成したけれど、そのポール版かな?今回は、ロックンロールではないけれど。
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「ロッド・スチュワートなどが、同じ類のレコードをシリーズで出したから、自分もやりたかったんだけど、先に出されちゃってね」というようなポールの話も載っていたけれど、昔からポールのアルバムにはこういう鼻歌的な作品が入っていたりしたので、ポールファンは慣れてるのね、こういうのに。
「マイ・ヴァレンタイン」は美しい。繰り返し聞いていたら、ビル・エヴァンスの「枯葉」のメロディーが浮かんで来る。
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こういうレコードが出る、ということは非常に今のポールは、ノリに乗っていると思われる。
非常に安定したレコードである。
正直安定しているから安泰、だけれど、ポール、あのね・・、という気も正直ある。
今回、世間では賛否両論になっているみたいだけれど、小生としては、「70歳の記念に自分の好きな事をさせてあげたら良いのでは?」と思っている。
そういう意味では、ポールは元気でやっているのだから、それでいいじゃないか、というのが小生の結論である。
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年内にはもう一枚今度はオリジナル新曲を収録したロック・アルバムが出るそうである。
次は「ノリに乗ったポールの大傑作」をお願いします。
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↓新作のプレス向けVD
http://www.youtube.com/watch?v=cW6RH2bOwd8
by hirowilbury | 2012-02-11 23:39 | ビートルズ